遺産分割調停などにおける不動産の評価について。
― 遺産分割や遺留分請求で評価額をどう決める?実務の流れとポイント ―
相続における調停手続では、不動産の評価がしばしば中心的な争点となります。不動産は、その評価方法によって価値に大きな差が生じるため、相続人間での分割割合や遺留分の侵害額にも大きく影響します。
本稿では、家庭裁判所における調停において不動産の評価額がどのように取り扱われているのか、当事者間で評価に関する合意が成立しない場合にどのような対応がなされるのか、そして不動産鑑定士の関与が必要となった場合の手続や費用負担について、実務に即して解説します。
目次
1.家庭裁判所では、まず「話し合い」が基本です
家庭裁判所の調停では、当事者間の自主的な合意による解決が基本とされます。不動産の評価についても、まずは各当事者が提出する資料をもとに、話し合いによって評価額を調整することが試みられます。
1-1.不動産の評価方法と参考資料
不動産の評価は相続調停において非常に重要な論点であり、評価方法によって金額に差が出るため、慎重な検討が求められます。以下に、調停の実務で主に用いられる4つの評価方法を、それぞれの特徴とともにご紹介します。
■ 実勢価格(時価)
実勢価格とは、実際に不動産が市場で売買される価格を意味します。現時点での客観的な不動産価値を把握できることから、最も現実的な評価方法とされることが多いです。
ただし、業者によって査定結果にばらつきがあるため、複数の不動産業者または不動産鑑定士に査定を依頼し、その平均や中央値を評価額の目安とする方法がよく利用されます。
■ 相続税評価額(路線価方式)
国税庁が毎年公表している「路線価」を基に算出される評価方法で、相続税を計算する際の基準価格として使用されます。相続開始年の路線価を用いるのが基本です。
評価額は実勢価格の概ね8割程度になることが多く、土地の評価に適しています。ただし、建物部分の評価には使えないため、補足的な資料が必要となる点には注意が必要です。
■ 固定資産税評価額
固定資産税評価額は、市町村が固定資産税を課すために定める評価額で、「固定資産税課税明細書」などで確認できます。土地・建物の両方に評価額が設定されているのが特徴です。
実勢価格のおおよそ7割程度になることが多く、比較的容易に取得できる資料として、調停手続でもよく活用されています。便宜的に「0.7程度で割り戻して補正して使う」といった運用もあります。
■ 公示地価
公示地価は、国土交通省が毎年発表している全国の「標準地」における価格です。不動産鑑定士による評価をもとに定められており、公共性の高い価格情報として知られています。
ただし、あくまでも一部の基準地点における価格であり、個別の不動産にそのまま当てはめることはできません。したがって、公示地価は直接的な評価額として用いられることは少なく、参考資料の一つとして利用されるにとどまります。
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◆ 補足:不動産鑑定士による私的鑑定
相続人の一方が、不動産鑑定士に依頼して私的鑑定書を作成し、調停に提出することも可能です。私的鑑定書は法的拘束力を持つわけではありませんが、専門的・中立的な資料として、調停委員や他の相続人の理解を得やすく、評価額に関する合意を後押しする場面も多く見られます。
また、家庭裁判所が後に不動産鑑定士を選任して鑑定を行う際、私的鑑定の内容が参考にされることもあります。
2.合意できない場合は、鑑定の手続きに進むことも
家庭裁判所における調停では、民事調停法第12条の7に基づき、調停委員会は必要に応じて事実の調査や証拠調べを行うことができ、その中には不動産鑑定士による鑑定も含まれます。当事者の申立てによる場合と、調停委員会の職権による場合の双方があります。
2-2.鑑定人の選任と基準
鑑定を実施することが決まった場合、家庭裁判所は登録された鑑定人の中から、地域や物件に応じて適切な不動産鑑定士を選任します。福岡家庭裁判所においても、福岡市や近隣地域の不動産市場に詳しい鑑定士が選任される傾向にあります。
2-3.鑑定費用とその負担
不動産鑑定にかかる費用は、対象物件の数や性質、評価方法の複雑性などによって異なりますが、実務上は数十万円からが相場と考えられます。事案によっては100万円を超えることもあります。
調停中に鑑定を行う場合には、鑑定費用に関しては、法定相続分に基づいて各当事者が負担することが原則であると考えられます。
3.鑑定結果の効力と位置付け
鑑定書は、調停においては法的拘束力を有するものではなく、評価の参考資料として取り扱われます。もっとも、鑑定が専門家による客観的な評価であることから、調停委員や裁判所が評価額の妥当性を判断する際の重要な根拠となることが多く、実務上の影響力は大きいといえます。
また、調停が不成立に終わって訴訟に移行した場合には、鑑定書は正式な証拠として裁判所に提出され、判決の基礎資料となることもあります。そのため、鑑定を実施するかどうかは、手続全体の進行や結果に大きく関わる判断となります。
4.調停をうまく進めるためのポイントは。
4-1.評価基準時の特定。評価時点を明確にする
不動産の価値は市場動向などにより日々変動するため、遺産分割においては「いつの時点で評価するか」が重要なポイントになります。
具体的には、評価の基準時を
- 相続開始時(=被相続人の死亡日)とするのか
- 遺産分割協議時(または調停時点)とするのか
が問題になります。
一般的な実務では、遺産分割は現在の財産を公平に分け合う手続きとされることから、原則として「分割時点」での評価(現在の時価)を基準とすることが多いとされています。これは、不動産の価値が相続開始時から大きく変動している場合、相続人間で不公平が生じることを避けるためです。
ただし、以下のような場合には、相続開始時の評価を基準とするのが適切とされています。
- 生前贈与や遺贈がある場合(持戻しを伴う場合など)
- 遺留分の算定を行う場合(民法1043条等に基づき)
このように、不動産評価の基準時は一律ではなく、法的性質や手続の種類に応じて異なります。調停や交渉の実務では、相続人間で「どの時点を基準に評価するか」について合意し、その合意に基づいて評価額を決めていくことも多く見られます。
したがって、評価時点をあらかじめ確認・合意しておくことが、後々の争いを防ぐうえで非常に重要です。
4-2.評価合意への工夫について
不動産鑑定は一定の費用と時間を要するため、できる限り当事者間で評価額の合意を図る方が望ましいといえます。そのためには、事前に複数の簡易査定書を取得して比較する、不動産鑑定士による私的鑑定を実施するなど、説得力のある資料を準備することが有効です。
5.まとめに代えて ― 弊所ができること
家庭裁判所における遺産分割調停や遺留分侵害額請求事件では、不動産の評価が解決の鍵を握ることが少なくありません。評価に関する対立を未然に防ぐためにも、評価方法の選定や鑑定の活用について、早期に戦略を立てて臨むことが求められます。
不動産評価に関する判断は、相続人の法的利益に大きく影響するため、調停や訴訟を視野に入れた対応をとることが重要です。必要に応じて、法的専門家の助言を受けながら進めていくことで、公平で納得のいく相続解決が実現しやすくなると考えられます。
弁護士法人染矢修孝法律事務所では、福岡地域の不動産実務に精通した不動産鑑定士と協力関係を築いており、示談交渉や家庭裁判所の調停手続において、私的な不動産鑑定の実施を通じて、依頼者にとって有利な条件で早期に合意形成を図った実績もございます。不動産評価をめぐる交渉や調停への対応においては、こうした専門的ネットワークを活かし、依頼者の利益を丁寧にサポートしております。
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